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◆研究

​1「​GISを用いたホンドオコジョMustela erminea nipponの

        生息適地分析」          岐阜大学 安井萌実

​​

 

 

 

​2「低緯度地域の山岳地帯に生息するオコジョの食性の季節変化」

​                  東京農工大学 高田幸作

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研究の詳細・データに関して興味のある方は,メールにてお気軽にお問い合わせください

安井:pisu7381@gmail.com

​髙田:kousaku085@gmail.com

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ホンドオコジョの生息適地推定図point_edited.jpg

GIS を用いたホンドオコジョMustela erminea nippon の生息適地分析            安井 萌実

 

【背景】

 オコジョ(Mustela erminea)はヨーロッパ,アジア,北アメリカと広く分布し,日本にはホンドオコ ジョ(M. e. nippon)とエゾオコジョ(M. e. orientalis)が生息する.ホンドオコジョは氷期の遺存種 で,本州中部以北の高山・亜高山帯で確認されており,環境省レッドリストで準絶滅危惧種に指 定されている.主に小型哺乳類を捕食し,年に 2 回換毛する.観察が困難で捕獲例が少ないこ とから,生態や分布に関する情報が限定的である.また,今後,温暖化やシカによる餌資源減少 の影響,他種との競合などの脅威が予測されている.本研究では,ホンドオコジョの生息環境や 分布制限要因を明らかにすることを目的とした.

【材料および方法】

 オコジョの発見記録は,Google 検索,Google Scholar,登山者アプリ(ヤマレコ,YAMAP),ア ンケート調査,地域住民や専門家からのヒアリング調査などを通じて全国から収集した.記録され た「発見位置」と「標高」に基づき Quantum GIS を用いて,発見位置マップを作成し,標高分布 を分析した.また,ホンドオコジョの生息可能域を推定するため,生息適地モデル(MaxEnt)を用 いて解析した.環境データとして,平年値(降水量,気温),標高,傾斜度,植生,土壌を利用し た.さらに野外生息調査では,岐阜県乗鞍山麓の五色ヶ原の森およびその周辺を調査地域とし て,カメラトラップや罠,誘引餌を用いてホンドオコジョの生息状況を確認した.

【結果および考察】

 発見記録は1953 年から 2024 年の間で計 1162 件を収集し,位置不詳記録などを除くと,ホ ンドオコジョが917 件,エゾオコジョが14件であった.発見地点は全国の山岳地帯に沿って分布 し,特に中部山岳地域の白山山系,北アルプス山系,中央アルプス山系などに集中していた. 2000 年以降の記録は,これ以前と比較して 2 倍以上に増加しており,これは白山,立山室堂, 尾瀬の自然保護センター等による収集・保存活動,登山者アプリの普及による成果と考えられた. 一方で東北地方では分布が点在しており,2000年以降の発見記録の分布域は縮小していた. MaxEnt による予測結果では,ホンドオコジョの生息は主に標高 1500 m 以上の地域で,年平 均気温が-3 ℃から 5 ℃の低温環境が最適と考えられた.植生では自然草原や自然林など,土 壌では褐色黒ボク土や未熟低地土の湿潤な環境(年平均降水量1500 mmから3250 mm)が適 地となった.傾斜度の影響はその他の変数と比較して最小であった. カメラトラップ調査では,沢や川付近の岩礫地や木洞などでホンドオコジョが撮影されたが,撮 影頻度は最大 6 回/月であった.ニホンイタチの撮影地点ではホンドオコジョは撮影されなかった. 罠による捕獲調査や誘引試験では,捕獲されず,誘引においてもホンドオコジョは確認されなか った.オコジョの生態調査では,遭遇率が低いため,1 回あたり 2 泊 3 日などの短期間の調査で は不十分であり,より連続した長期調査が求められる.今後,中・低標高地域や高緯度地域での データ収集方法の改善,現地生息調査の強化,最適地モデルの改良が必要である

ホンドオコジョの生息適地推定図_中部拡大.png

2024年度日本哺乳類学会ポスター

情報収集用ポスター(一例)

MaxEntによる​生息適地予測マップ

​(右下:中部地方拡大版)

スクリーンショット 2025-03-31 214320.png

2024年度日本哺乳類学会ポスター

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​季節別のオコジョの糞内容物分析

低緯度地域の山岳地帯に生息するオコジョの食性の季節変化            髙田幸作

【背景】

 オコジョ(Mustela erminea)は北半球の高緯度地域の広域に分布する小型食肉目で,日本は分布の南限に位置する.日本のような低緯度地域における食性研究は限られており,特に標高の高い山岳地帯での情報がほとんどない.ヨーロッパ北部などの高緯度地域ではハタネズミ亜科に大きく依存した食性を示す(Erlinge 2013).ヨーロッパ南部の低緯度の高山帯でもハタネズミ亜科に依存するが,夏季には果実が重要となる.

本研究の目的は,低緯度地域の山岳地帯である本州中部地方の浅間山における,オコジョの食性とその季節変化を明らかにすることである.

【材料および方法】

 調査地は長野県浅間山山麓.標高1400~2400mの登山道周辺.ミズナラ,カラマツ人工林,亜高山帯針葉樹林,高山草原,火山性高原など多様な食性を含む.2023年8~12月,2024年4~8月にかけて糞の採集を実施.糞径が7mm以下のものをオコジョとして識別.採集した糞を①洗浄,②洗浄水を見て,ミミズの剛毛の有無を評価,➂頻度法および,ポイント枠法にて糞内容物を評価.

【結果および考察】

 ヨーロッパのようなハタネズミ亜科への依存性は確認されず,アカネズミ類とヒミズ類を頻繁に捕食した.これは森林性の小型哺乳類の供給が豊富であることが影響したことを示唆している.また,ヨーロッパの低緯度高山帯のオコジョと同様に,日本の本州でも季節に応じた果実利用など食性の変化がみられた.これは利用可能な植物資源のへんどうによって多様な植物資源を活用していることを示唆している.ポイント枠法と頻度法の結果を比較すると,小型哺乳類の相対頻度が低いが,占有率が高かった.これは,小型哺乳類が食物として重要であるが,捕食機会はその他の食物よりも少ないことを示唆した.

2025年3月31日更新

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